阿部養庵堂薬品 代表・阿部朋孝が、あらゆる業界の第一線で活躍する巨人たちとの対話を通じて、若さと成功への知見を得る対談シリーズ。
記念すべき第1回は、現KDDIの創業者・千本倖生さんにお話を伺います。
千本さんがどのようにして若々しさを保ち、長年にわたる成功を収め続けることができたのか、その秘訣を深掘りしていきたいと思います。
今も第一線で活躍を続けられる秘訣
阿部 すごく多忙ですね。そのように睡眠時間がままならない中でも、今も第一線で活躍を続けていこうと思っていらっしゃる理由や、その根底にあるものについて教えていただけますか。
千本 いえ、第一線でいることが目的ではないのです。私は、阿部さんのような若い方々と話をし、仕事をしていることが楽しいから続けています。反対に、楽しくなかったらやっていられないですね。今こうして、色々な議論をしていることが、脳に対して健全な良い刺激になっているわけです。同年代とは、世代特有の病院や健康の話だけになってしまうので、そんな話ばかりだと発展はしません。
阿部 若い世代と働き会話することで、脳への良い刺激がありさらには健康でいられる、ということですね。
千本 何もしないと、脳は縮退していく一方ですよね。だから、若い方々と話すことで様々な新しい知識を得て大きな刺激をもらっているのです。若い方々とのコミュニケーションは私にとって最大の喜びで、最大の情報源です。
運動もそうですが、それ自体が好きで続けていて、続けることで自分を活性化してくれるから、また継続できるのです。
阿部 正のサイクルに入っていますね。その習慣化した運動はすでに38年続けられているんですよね。かなり早くから取り組み始められたと思うのですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
千本 実は健康のためではなくて、京セラ(現 KDDI)を稲盛(和夫)さんと作ろうと思った時に始めたのです。世間の方は、稲盛さんに対して仏様のような人格者というような印象を持っているかと思うのですが、実は神様というよりも阿修羅みたいな人なんですよ。悪く言ってしまうと、やんちゃ坊主のガキ大将。これは貶したいわけではなくて、そういう人でないと、すごいことはできないと思っているのです。
阿部 私も稲盛さんの経営講和を拝読させていただきましたが、その中で“すごいことを言ってるな”と驚くことがありました。会社ができた当時のエピソードなどにも、びっくりしました。
千本 そうなんですよ。ヤクザの親分かと思うような気迫がある。エネルギーレベルがそのくらいすごくないと、京セラやKDDIの経営、JALでの無報酬で会長就任などはできないですよね。仏様のような方にできるわけないですよ。
阿部 なるほど。「阿修羅」のような凄みやパワーがあるということですね。
千本 ただ、稲盛さんは阿修羅やヤクザで終わらず、70代あたりから阿修羅時代の成果をずっと収斂させ、人格を磨き、仏様のような領域に足を踏み込んだと感じています。
稲盛さんには一番叱られた弟子であったと思います。それは殆どの弟子たちは人格も素晴らしく、従順で稲盛さんに異を唱えることは決してありませんでした。当時の私はプロパーでなく、フィロソフィーも良く理解せず違った価値観で反論したものですから稲盛さんは全身を真っ赤にして大音響で私を叱り付けたものです。(今ならら典型的なパワハラの極致でしたね)
でも、それだからこそ後年自らイー・モバイル(現Y!モバイル)等いくつかのベンチャーをひとりで立ち上げたときに稲盛さんの経営者としての教えを一番体得し得たのは私だったかもしれません。
稲盛さんの弟子で自ら大きなベンチャーを立ち上げた例を私は知りませんし、稲盛さんの教えに一番恵みを受けたのは私だったかもしれません。
阿部 なるほど。確かに、そうですよね。
そんなエネルギーレベルの高い稲盛さんと仕事をしなければいけないのに体重は40数キロで筋力も全然なく、年に一度はギックリ腰を起こすような状態で…今の姿からは、ちょっと想像つかないでしょう(笑)。
そのことがきっかけで“このままではいけない、肉体改造しなきゃいけない”と思い、東京で一番いいジムに通おうと探していたところ、今のジムを見つけて入会したのです。そこから38年続いて、今に至ります。
体力作りで通いはじめたジム通いがもたらした、驚くべき効果
阿部 では、KDDIを創設された1984年、脱サラされた時から続けられているということですね。それは当時の千本先生にとっては、かなりの投資ですよね。
千本 当時、その点は全然気にしなかったです。だけど、結果的に今までで一番良い投資になりました。今も健康が保てているのは、当時のその決断のおかげです。とはいえそれは、実は健康目的というよりも、稲森さん対策で始めたわけです(笑)。こんな弱い身体では絶対だめだ、最低限、体作りはきちんとやっておこうと決意して通い始めたのです。
阿部 朝5時に起きてジムも毎日欠かさず通われていると、てっきり、もともと大変体力がある方なのかなと思いましたが、稲盛さんの湧き上がるエネルギーに対抗するために始めたわけですね。
千本 もうひょろひょろの体型だったのです。病気も頻繁に罹ってたので、“これは稲森さんと一緒に仕事したら絶対におかしくなる”と思い、体力作りで始めたジム通いが3年、4年と継続して習慣になりました。
『KDDI』の前進である『DDI』は、暴風の中を小舟で漕ぎ始めるような思いで、言葉では表現できないような命を脅かすこともある中で。“こんな人生、選ぶんじゃなかった”という後悔が何度も思い浮かぶようなこともありましたが、そんな中でも、とにかくジムはほぼ毎日欠かさずに続けて、習慣にしました。
結局このジム通いへの投資が一番良いのだと分かったのは、実は去年ぐらいからです。
阿部 そんなに最近なのですね。
千本 2023年あたりにヨーロッパで大ベストセラーを記録した、『運動脳』(著者:アンデシュ・ハンセン /訳者:御舩由美子)という、スウェーデンの精神科医が書いた本があるのですが、内容を要約すると「人間の脳が年を取ると、認知症やアルツハイマーになることがあるが、それを改善する薬は世の中にはない。あったらノーベル賞ものである。でも、改善する薬に1番近いものは何か。それは連続した運動だ。」といったことが書かれています。この本を読んで、結局ジム通いが一番良かったということが分かったのです。
去年、書道家の武田早雲さんと食事をした際に『運動脳』の本を持参されていたんですが、私の年齢を聞いて、「80歳でこんな生活ができるなんて、普段どのようなことをしているのですか」とビックリされたんです。私が続けていることは簡単で、38年間、毎朝ジムに行き60分歩いていますと伝えたら、「本の内容を実践されている方を初めて見ました」と言われたんです。それで、私も『運動脳』を読んでみたら、実は連続した運動は体にいいだけじゃなく、脳に繋がっていることが分かったのです。80歳で、これだけ活気に満ちて若い人たちと議論し論破したりされたりできているのは、実は習慣になっている運動のおかげだったのです。
阿部 なるほど。そこに最大の秘訣があるのですね。
千本 結局、人間にとって一番大事な価値は健康です。例えば、リーダーが健康を損ねると経営判断を間違えて結果的に会社がおかしくなってしまいます。ですから健康ほど大事な資産はありません。ジム通いは、これに対する投資になったわけです。高級なジムに入会したけど、38年間通い続けたことで、これだけ健康な体を維持する事ができているというものすごいリターンを今もらっているわけです。
阿部 まさに健康投資。これはお金に変えられないですね。